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正義漢の源流 復讐の始まり 

正義漢の源流 復讐の始まり

 そして遂に、私のいじめに対する復讐を始めることにした。私はこの機会をずっと待っていた。

 ある日の、3校時と4校時は図工の時間だった。粘土で城を作っていた。案の定、廊下の後ろに座っている私に、土屋が粘土を投げてきた。それを見た5人の子分たちも粘土をちぎって、私の頭をめがけて投げてきた。クラスの皆は知らぬふりをしていた。

 暴力教師迫田先生は、気付いているのに知らぬふりをしていた。土屋にかかわると仕事の妨《サマタ》げになるのだろう。土屋の暴力教師迫田先生に対する反抗的な態度は凄かった。だから、暴力教師迫田先生は、土屋には関わりたくないのだ。土屋の方が担任の迫田先生より身長も体重も大きかった。迫田先生は、気付いているのに知らぬふりをする。これはいつものことだった。私に手を差し伸べてくれる教師は未だかつて一人もいなかった。4校時の終了のチャイムが鳴った時、案の定、土屋たちが私の机に寄ってきて、粘土の塊を髪の毛にこすりつけてきた。
「やめろ!」
 私は敢《ア》えて大きな声で叫んだ。クラス全員が私の方を見た。
「うるせえんだよ!ゴツン!」
 土屋が私の頭を拳で叩いてきた。私は言い返した。
「お前から殴《ナグ》ったよなあ~。お前から暴力を振るったよな~。昼休みにジャングルジムの芝生《シバフ》に来い。素手《スデ》でお前とタイマンしてやるからよお~!」
 私は敢えて大きな声で叫んだ。取り巻き連中や見て見ぬ振りをする連中、ギャラリーを増やすためだ。私は未だかつてない言動を取った。その私の態度にクラスのみんなが驚いた表情をしている。
「大丈夫なの、彰君?」
「いつもの彰君じゃないよね?」
「あんな彰君の声、初めてだよね?」
 特に、クラスの女子と他の男子から小さい声が漏《モ》れていた。

 そして、もう一人復讐したい奴がいた。陰湿《インシツ》ないじめをする白坂だ。
「おい、ついでだ。白坂!お前おととい、俺のランドセルをサッカーボールみたいに蹴ってたよなあ~。俺が止めに入ったら、肩と胸を殴ってきたよなあ~。」
 成績のいい白坂はだまっている。白坂は狡猾な奴だ。後のことまでしっかり考える奴なんだ。自分が暴力を振るったことを自白するような男じゃない。
「もう一度言うぞ、白坂!おまえおととい、俺のランドセルをサッカーボールみたいに蹴ってたよなあ~。俺が止めに入ったら、肩と胸を殴ってきたよなあ~。」
 それでも白坂は黙っている。黙秘して知らぬ顔をしているのだ。

 すると、あろうことか土屋一派の橋口が、
「白坂、お前、彰の肩と胸を笑いながら殴ってたじゃねえか。ランドセルも蹴っていたじゃねえか。なんで一人だけ知らんふりしてんだ。」
 学級中が騒ぎ出した。
「橋口が言っていることが正しいじゃん。」
「俺も見てたけど、彰に暴力振るってたぞ。」
「私見てた・・・。」
「私も・・・。」
 遂に白坂が自白した。
「ああ、あの事かあ~。それがどうした?」
「お前から殴《ナグ》ったよなあ~。お前から暴力を振るったよな~。昼休みにジャングルジムの芝生《シバフ》に来い。土屋と素手《スデ》でタイマンする前に、お前とタイマンしてやるからよお~!逃げるなよ!」
「お前、馬鹿か?犬っころが、俺に勝てると思ってんのか?」

 私は、「しめたと思った。これで土屋も白坂も暴力の事実を認めたからだ。クラス全員がこの経緯を把握している。土屋と白坂が暴力の事実を公に認めた。これでいいんだ、兄ちゃんのアドバイス通りに俺の作戦は進んでいる。クラス全員がこの経緯の目撃者になってくれた。後はタイマンで勝つだけだ。」と内心ほっとした。心臓のドキドキは止まらないが、後はタイマンで勝てばいいんだ。

 そして、昼休みになった。私は芝生を確保するために全力で走った。数分後、土屋と子分たちがやって来た。そのあと、取り巻き連中や見て見ぬ振りをする連中、そして他のクラスのギャラリーでいっぱいになった。周りを見回すと200人以上いたと思う。他のクラスのギャラリーたちはジャングルジムに上って、高みの見物をしていた。

 私は、敢えて土屋に問うた。
「お前は大物だから、最後に勝負だ。まずは、白坂とタイマンさせてくれ。」
「別にいいけどよお~。お前、白坂に勝てんのか?俺とタイマンする前に白坂に殴られて泣くんじゃねえのかあ?アハハハ。」

「白坂の野郎、来ねえなあ、あっ、来た、白坂が来た!」
 土屋の第一の子分である、橋口が大声で叫んだ。クラスのみんなや他の暮らすのじゃラリーたちも騒ぎ始めた。
「白坂君が来たよ。」
「あっ、白坂だ!」

 私は、再度、クラスのみんなやギャラリーに聞こえるように大声で尋ねた。
「白坂!お前、俺のランドセル蹴っていたよなあ?俺が止めろといったら。お前から暴力を振るってきたよなあ。」
「ああそうだが、それがどうした?」
「謝《アヤマ》れ!土下座して謝ったらお前を許してやる?」
「はあ?調子に乗るんじゃねえ!」
 白坂は、私の肩を押した後、私の髪の毛を引っ張った。膝蹴りをするつもりだ。
「ダンッ。」
 私は、髪の毛を引っ張られたまま地面を強く踏み込み、そのままの至近距離から全体重を右拳に載せて白坂の「壇中」を打ち抜いた。打ったのではない。打ち抜いたのだ。
 白坂は身長は高かったが、太ってはいなかった。その白坂が私の髪の毛を放し、体が低空を舞って、5メートル以上後方に吹き飛ばされた。
「ええ~っ!」
「ええ~つ!」
「何だ!何が起きたんだ!」
「何だ!彰が一発で白坂を吹き飛ばしたぞ!」
 私は、敢《ア》えて悠々《ユウユウ》と歩きながら白坂に近付いた。
 芝生に横たわった白坂は、横を向いた姿勢のまま、泣き叫んでいた。
「痛え~、痛え~、骨が折れてる、骨が、骨が折れてる、息ができない!」
「白坂、このままもう一発くらうか?それとも謝《アヤマ》るか?」
「・・・。ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません、ごめんなさい。」
「クラスの友達もいじめるのか?もうやめるのか?」
「もういじめません。」
「本当だな?」
「はい。」
 胸を押さえながら白坂は泣いていた。声が聴き取れぬほど小さかった。
「おーい、みんなー!白坂はクラスの友達をいじめないってさ。」
 クラス全員の友達や他のクラスの友達から一斉に声が上がった。
「ワァァァ!」
「やったあ!」

 次は、いじめ大魔王の土屋とのタイマン勝負だ。私を最もいじめた土屋とのタイマン勝負だ。
「おい、いじめ大魔王の土屋!お前はこれからも暴力を振るって、俺をいじめるつもりか?」
「当り前よ。彰、お前、手に何か持っているだろう?白坂があんなに吹っ飛ぶわけがねえ!」
「はあ、見ろよ!俺は何も持ってねえぞ!ナイフや鉄筋だったら、白坂は血を流しているだろうが!白坂が血を流しているのか?」
 土屋は、私が手に鈍器や鉄筋を持っていると疑っている。だからわざわざ白坂の所へ行き、胸とお腹をさわっていた。

「おい、いじめ大魔王の土屋!白坂のシャツを見ろよ、破けてねえだろうが?今さら逃げ出す気か?」
「うるせえ、犬っころ!確かめただけだ!」
「土屋、俺の手のひらを見ろよ、何も持ってねえぞ!ほれ!」

「彰、犬っころのくせに、白坂に勝ったぐらいでいばるんじゃねえ!」
「よし、じゃあ、いじめ大魔王の土屋、タイマンを始めるぞ!」
 私は、ジークンドーの構えを取った。土屋は本能的に私の打撃を恐れたのだろう。身をかがめた姿勢で両手を高く上げていた。土屋は俺の服を両手で握り締めて背負い投げをするつもりだろう。土屋の背負い投げは、強烈に痛かった。二度と喰らいたくない投げ技だ。土屋は利き腕の左腕で私のシャツを握ろうと前に出てきた。私はそれを見逃さなかった。
「パンッ。」
「ダンッ。」
「ドスン。」
 私は、地面を強く踏み込み、右肩から5つ分話した拳で土屋の左手を払いのけ、そのまま全体重を右拳に載せて土屋の「壇中」を打ち抜いた。打ったのではない。打ち抜いたのだ。

 土屋は身長が高く、かなり太っていた。その体が宙を舞い、背中と頭から芝生に跳ばされた。5メートル以上後方に吹き飛ばされたのだ。
「ええ~っ!」
「ええ~つ!」
「何だ!彰が一発で土屋を吹き飛ばしたぞ!」
 芝生に横たわった土屋は、転がりながら、泣き叫んでいた。

「痛えよお~、痛えよお~、息が、息ができねえよお~。痛えよお~。」

 私は土屋の前に仁王立ちでたち、土屋に尋ねた。
「土屋、まだやるか?」
 土屋は痛みのあまり、返事ができない。私は5分ほど土屋の前に仁王立ちになり、土屋の子分たちの名前を一人ずつ私の前に呼び、尋ねた。
「おい、お前らも、俺とタイマン勝負するか?」
「・・・・・・。」
 返事がないため、私は土屋の一番の子分である橋口の胸ぐらを掴んで言った。
「おい、タイマンするか?それとも今までのことを謝るか?」
「ご、ご、ごめんなさい。もうしません。」
土屋の子分たちは全員、私に土下座をして謝った。子分たちも一発ずつ叩いてやりたかったが、私はなぜか謝罪する者を叩く気にはならなかった。そして、再度、土屋の前に立って、土屋の様子を見た。両手で胸を押さえているが、呼吸は安定しているようだった。私は土屋に再度尋ねた。
「土屋、まだやるか?」
「いいえ、もうやりません。」
 そこには、これまでと見違えるほど弱弱しい土屋の姿があった。
「おい、土屋。俺に謝る気持ちがあるか?」
「は、はい。ごめんなさい。」
「それだけじゃ足りねえ。二度と人をいじめませんと言え。お前がこれまで沢山の人をいじめたり、暴力を振るったりしていることは知っているんだ。だから、これからは、二度と友達をいじめたり、殴ったりしませんと土下座して言え。」
 土屋は、地面に横たわったまま体を起こし土下座をした。
「これからは、二度と友達をいじめたり、殴ったりしません。ごめんなさい。」
 土屋らしからぬ、とても弱弱しい声だった。

「よし、分かった。」
「お~い、みんな!今の土屋の言葉を聞いたか!」
 私は周囲にいる全員に尋ねた。
「聞いたよ、聞いた!」
「ちゃんと聞いたよ!」
「うん、聞いたよ!」
 周りにいる全員が口々に言った。

 私は敢えて楔《クサビ》を打ち込むように倒れている土屋の胸ぐらを掴んで言った。
「土屋、今度、友達をいじめたり、暴力を振るったりしたら、この程度じゃすまないからな。いいか、覚えとけよ。」
「・・・・。はい、分かりました。」

 クラス全員の友達や他のクラスの友達から一斉に声が上がった。
「ワァァァ!」
「やったあ!やったあ!」
 これでやっと私の復讐は終わった。

 

 それ以来、白坂と土屋は急におとなしくなった。私と教室や廊下ですれ違う時、2人とも頭を下げるようになっていた。土屋一派の橋口たちも頭を下げるようになっていた。なぜなら、すれ違う前から、わざと正面で出くわすように進路を変更したからだ。私は、これまで土屋と土屋一派の橋口からされたことを思い出すと、怒りが込み上げ、気が済まなかったからだ。

 私が、土屋一派の橋口たち白坂と土屋は私とタイマンをし、一発で5m吹き飛ばされたことが、学校中の噂《ウワサ》になった。土屋には兄がいたが、弟と同じ喧嘩レベルであった兄は、私に手を出さなかった。弟と同じ強さであれば、私からボコボコにされると思ったのだろう。それからは、土屋一派や白坂、他のクラスの者からいじめを受けていた者たちがいつも私の周りに近寄って来て、親切にしてくれた。私のそばにいれば、私のことを怖がって、いじめられないからだ。そして、今まで「彰」と呼び捨てられていたのだが、「彰君」とクラスのみんなから呼ばれるようになった。
 数日経ってから、休み時間に土屋より喧嘩の弱い暴力教師迫田先生から呼ばれたので、机の前に言った。すると、
「彰君、土屋と白坂と喧嘩をして勝ったそうだね?」
 と腐ったような笑顔で話しかけてきたが、私は
「さあ、知りませんよ。」
 と一言だけ返答して席に戻った。教師が子供を殴ったり、けったり、往復びんたをしたり、教科書を丸めて思い切り子供を殴るから、「こいつには、こんなことをしていいんだ。」という悪いモデリングの影響を及ぼすからこういうことになると後で知った。私は今でも、目の前に暴力教師迫田先生が来たら、謝罪をさせたいと思っている。それほど、あの頃の教師たちは平気で暴力をふるっていたのだ。

 私はこの一件をさかいにして、誰からもいじめられなくなった。それ以来、「君付け」と呼ばれるようになった。男子の世界で、一目置かれている奴は必ず「君付け」で呼ばれるのだ。「彰君」と。

 

「兄ちゃん、土屋と白坂に復讐できたよ!」
 伝えた日、兄は私を持ち上げて喜んでくれた。
「彰、ついにやったなあ。見上げた根性だ。流石《サスガ》に俺の弟だ。」
 と褒めてくれた。

 いじめとは、人の心をボロボロに破壊する。そんな理不尽なことが許されていいわけがない。ほとんどの者は、ずっといじめられることになる。だが私は、兄のおかげで復讐することができた。それからだった、私はいじめをする者をいじめることが趣味になった。私が味わった苦しみと怒りを味わわされている友達を見捨てるわけにはいかないからだ。私の正義漢の源流はこのストーリーそのものだ。

 

【注意事項】
『壇中《ダンチュウ》』を狙った打撃は、人を殺《アヤ》めてしまう危険性のある技です。絶対に真似をしないで下さい。この小説には、この技がこれ以降も登場してきますが、絶対に真似をしてはいけません。

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