心理学における他者に対する敬意について

　今回は、「心理学における他者に対する敬意」について話したいと思います。おそらく、日本の成人の多くが「他者に対する敬意」のおおよその意味ついて知っていると思われます。一方で、「他者に対する敬意の本質」については、知らない、或いは考えたことがない人が少なくないと推察されます。

 

　「敬意」は、他者への存在価値を承認し、素晴らしく尊いものとして尊敬し、その他者を敬うことを意味します。したがって、他者に対する「敬意を表する」という言葉の、「表する」とは「表明する」ということを意味します。「表明する」とは、自分の考えや心情、態度や決意などをはっきりと表し、示して宣言することです。
　したがって、他者に対して「敬意を表する」とは、「他者の存在価値を重んじ、他者を敬う態度を表明する」という意味になります。

 

　今から遡（さかのぼ）ること、23年前の第22期国語審議会は，2000年12月に「現代社会における敬意表現」という答申をまとめ，「敬意表現」という言葉遣いを提唱しています。

 

　私は、この答申を評価しています。なぜなら、心理学における肝心な理念が含まれているからです。その言葉には、分かりやすいようにアンダーラインを付しました。

 

　この答申の主なポイントは以下の通りです。

 

「国語審議会は現代社会の言葉遣いの在り方を考える上で重要な概念として「敬意表現」を提唱する。
敬意表現とは，コミュニケーションにおいて，相互尊重の精神に基づき，相手や場面に配慮して使い分けている言葉遣いを意味する。
それらは話し手が相手の人格や立場を尊重し，」以下省略

 

　このアンダーラインの箇所には、心理学、とりわけカウンセリング理論の肝心な部分が含まれています。そのことについて私自身を例にして具体的に説明します。

 

　私の中枢性疼痛の激しい痛みは私にしか分かりません。

 

　当然のことと言えば当然なのですが、この激しい痛みを他者に分かってもらえない「心の痛み」もあるのです。私の中枢性疼痛の正式な病名は、ワレンベルグ症候群です。ワレンベルグ症候群自体は数万人に１人の割合です。したがって、難病指定も不可能です。ただ、線維筋痛症などの異なる病気で激しい痛みを常時、感じていらっしゃる方々は多いです。その方々との痛みの共通項は多いため、互いに共感しやすいのです。そして、お互いに良き理解者となれます。

 

　しかし、思い上がってはならないと思うのです。

 

　私の中枢性疼痛があなたに理解できないように、私もまた、あなた胸の奥にある苦しみや悲しみは理解できないからです。

　自分の体に激しい痛みがあるからという理由で他者に対して排他的になるのは間違いだからです。私が中枢性疼痛で激しい痛みを抱えながら生き地獄の中を生きているように、この世には、体の痛みや途方もない苦悩で心が壊れかけている人も少なくありません。今まさに、生きることに絶望し、「これ以上生きていくことがあまりにも辛すぎる。」という思いで自分の命を絶つことを考えている人もいるからです。

 

　共感的理解の意味は、十全（じゅうぜん：完璧の意味）に相手のことを理解することではありません。共感的理解の意味は、体の痛みによる心の窓を通して、あなたの胸の奥にある痛みを推し量ることなのです。

 

　その推し量ろうとする姿勢こそが大事であって、何十時間、対話したとしても、「もっとこの方には人に言えない苦しみや悲しみやせつなさが胸のずっと奥にあるに違いない。」そう思うことが、心理学、とりわけカウンセリング理論における「他者に対する敬意」の本質なのです。

 

　その気持ちがあるからこそ、他者をより尊重し、もっと理解したいという気持ちに繋がってゆくのです。

 

　私は、他者に対する敬意とは、何十時間、対話したとしても、「もっとこの方には人に言えない苦しみや悲しみやせつなさが胸のずっと奥にあるに違いない。」という気持ちを忘れずに抱き続けることが大切だと思います。

 

　それこそが、心理学における「他者に対する敬意」の本質なのです。

 

　私は公的研究機関で5年間カウンセリングを行った者として、この気持ちを大切にしていきたいと思います。

 

　最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。感謝致します。

 

【写真1　私の「はとこ」さん提供。Instagram　yumehilaku ☆子 】

 

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