以前に話しましたが、私が大学院で心理学を学んだ理由を整理すると、１.教え子の死で心的外傷後ストレス障害（PTSD）になったこで、「強さ」をはき違えていたことに気付いたから。２.私が心的外傷後ストレス障害になったことで、「いったい、人の心ってなんだろう。」という強い関心を抱いたから。３.教え子の死を通して学んだ経験を心理学で論理的に整理し、大切な何かをつかみたいという強い衝動にかられたから。４.教え子の死を通して学んだことを、心理学で体系化し、そこで学んだ知識を教育現場や社会に還元しなければ、教え子の死が無駄になるという想いが強かったから。これらの考え方が私の根底にあります。学校現場や児童自立支援施設、公的研究・研修機関で子どもへの還元はできたと思います。

　特に、児童自立支援施設での勤務と公的研究・研究機関で最も学んだことは、とても懐疑的でした。その懐疑的なことは、「なぜ、この子どもがリストカットを続けるようになるまで周囲の大人たちはほったらかしにしていたのか」、「なぜ、この子が学校でいじめられ『死にたいと』思うようになるまで親も学校も気付かなかったのか」、「なぜこの子が登校をしぶり、帰宅してから自宅で暴れるのか？」、「なぜ、この子がこんなに長く不登校の状態になるまで、親も学校も効果的な働きかけをすることができなかったのか？」「なぜ、この子の虐待を学校と周囲の大人たちは見抜けなかったのか？」という現実に対する強い疑念と憤（いきどお）りでした。

　その疑念と憤りを解決する切り口は、生徒指導の基盤にありました。それは、「早期発見」と「未然防止」に
軸足を据えた積極的な働きかけなのです。ことが起きてからは遅い。ことが表面化してからでは解決が長引く。
だから、普段何もない時に子どもが学校でどのように過ごしていているのか、という子どもの学校適応感を調べる心理システム開発の重要性を感じたのです。普段、保護者は我が子が学校でどのような様子で生活しているのか、どのような心理状態で過ごしているのかを把握することができないことも大きな要因でした。

　私は、大勢の子ども達に聴き取り調査を行い、およそ１００項目の質問を設定しました。その中から、質問内容を精選し、７６問からなる子どもの学校適応感を把握する質問紙を作成しました。すると、その７６項目の質問項目は、小学校１年生から高校３年生までほぼ一致したのです。そこで、子どもの発達段階に応じた言葉に変換し直し、小学１年生から高校３年生までの学校適応感を調べる質問紙を作成しました。

　その質問紙を、複数の小学校と中学校、高校に事前予備調査を実施し、小学校１年生から高校３年生の分まで数千人分のデータを回収することができました。私は、４０万個のデータを入力し、心理学統計ソフトで様々な分析にかけました。しかし、40万個のデータの入力作業は、過酷でした。

　なぜなら、職務内容が、生徒指導と学校カウンセリングの講義を行いながら－　多い時では約300人の教師たちを対象に、加えて離島での講義も　－、また、様々な不適応行動のある子どもや保護者のカウンセリングを行いながら、そして、学校現場から1年間、研究にやってくる長期研修者の教師の指導教官として働きながら、さらに、学校の課題に応じた研修資料の作成とパワーポイントによる資料の作成を行いながらの職場環境の中では
ほとんど勤務中にデータを入力する時間などないのです。土曜日と日曜日と祝日はずっと自室にこもり、2か月間かけてデータを入力しました。

　私は血の滲む思いで取り組んだ研究は結実しました。驚くべきことに分析結果が、小学校1年生から高校3年生まで、発達段階を考慮して表現のみを変えた項目が26項目一致したのです。その項目にネーミングをすると、6つの観点に分けることができました。子どもの学校適応感を調べるには、①教師との関係、②友達との関係、③学級集団への適応感、④自己肯定感、⑤心身の状態、⑥学習意欲の各4項目ずつ+いじめに関する2項目から構成できるのです。事前の予備調査は76項目ありましたが、関連性の強い26項目に絞り込むことが容易でした。

　事前の予備調査の分析を基にしてつくった質問紙による調査を鹿児島県内の小学校から高校まで２万人近い子どもを対象に本調査を実施しました。私は、同僚の意見を採用して子どもの学校適応感を調べる質問紙に「学校楽（たの）しぃーと」と名付けました。

　私は、この「学校楽（たの）しぃーと」にある仕掛けをしました。でたらめに面倒くさい気持ちで回答する子どもを見破る「逆転項目」というトラップを幾つも仕込みました。この仕掛けにより、「学校楽（たの）しぃーと」をし実施した後で行う教育相談の中で、その子どもに矛盾点を説明できるようにしたのです。加えて、鹿児島県内を対象とした本格的な調査は、都市部や農村部、その中間の人口のある都市を調査対象校として選定し、都市部と農村部の特徴や傾向が把握できるように調査を実施しました。

　その結果、とても興味深いことが幾つも明らかになりました。その内容は割愛しますが、重要性の再確認をすることができたのです。明らかに、未然防止のための声掛けや働き掛け、語り込みや家庭訪問をしなければならない子どもが少なくなくなかったのです。子どもの回答をエクセルのシートに入力すると自動的に別のシートに六角形（6観点）のレーダーチャートとして視覚化することができ、県の平均値もそのレーダーチャートに反映できるシステムになっているため、子どもの状態を視覚的に把握することが容易なのです。

　ついに、全国初の、しかも、無料版の子どもの学校適応感を調べる心理分析システム「学校楽（たの）しぃーと」が完成したのです。血の滲む思いでこの「学校楽（たの）しぃーと」をつくり上げました。連日、データを自宅に持ち帰り、明け方まで入力作業は続きました。土曜日も日曜日も祝日も関係ありません。自室にこもりっきりでテンキー入力をし、小学校1年生から高校3年生までの同じ項目内容が学年が上がるにつれて、どのように推移していくか分かるのです。また、この「学校楽（たの）しぃーと」を毎年実施することで個人の学校適応感の推移も把握することができます。
　そして、「学校楽（たの）しぃーと」の肝である不適応行動の早期発見・未然防止に貢献するアイテムがこの鹿児島県から誕生したのです。現在でも、我が鹿児島県は9割以上の学校が、この「学校楽（たの）しぃーと」を年に2回ほど実施して、生徒指導に役立てています。【図１　「学校楽（たの）しぃーと」】

　急性期病院の主治医も現在の主治医も、私が3年間前から手足の痺（しび）れや右唇の周りの痺れが始まり、廊下を歩くときに左側に寄ることでの壁への衝突、起床後、起きたくても体が動かせない、手足や背中や腰が自分の体でない感覚になっていた状態を考えると、3年前から既に首の後ろを通る二つの動脈のうち、右の椎骨動脈が、長期間にわたる過労とストレスによって、動脈内部がミクロ単位で削られたり切られたりしていた可能性は極めて高いことを示唆（しさ：それとなく教えること）してくれました。

　特に若い世代と働き盛りの世代の皆さんに伝えたい。
「人生には、取り返しのつくことと、取り返しのつかないことがあるのです。」

　私は、延髄梗塞後、中枢性疼痛を発症します。外傷はまったくありません。しかし、右顔面は複数の包丁で切り刻まれる激しい痛みを感じます。右顔面知覚異常障害です。右のども嚥下障害があり、嘔吐物が右の肺に入り、
右肺の２分の１は機能を失っています。左下肢は腰から左足の指までガスバーナーで燃やされる耐え難い熱さを感じます。左下肢温痛覚異常障害です。平衡感覚も障害があります。杖をしないと、転んだりひっくり返ったりすることが多いです。天候や気圧の変化、ストレスに敏感に反応し、激しい痛みのときは、右顔面に保冷材やアイスノンを当てて医療ベッドに横になります。

　極めつけは、中枢性疼痛が原因による「外因性うつ病」です。精神医学や認知心理学では、心のエネルギーのことを「心的エネルギーの法則」といいます。中枢性疼痛がはげしいときにずっと耐えなければなりません。痛み止めの薬も服用していますが、ほんの僅かしか効き目がないのです。耐え続けることによって、心的エネルギーは消費され続け、最後には空っぽになります。スマートフォンと同じですね。スマートフォンはバッテリーが空っぽになると充電します。私の外因性うつ病は、３，4日寝ることによって充電されるのです。これを精神医学や臨床心理学では「自我備給」といいます。寝ることによって、ダメージを受けた脳の神経細胞が修復されるのです。ですが、深刻なダメージだといくら寝ても細胞の修復が追い付かない場合もあります。

お子様の学校での様子に違和感を覚えたときに用いる具体的な「学校楽（たの）しぃーと」の活用法

　ごめんなさい、話が後半横道に逸れてしまいました。では、本題の具体的な「学校楽（たの）しぃーと」の活用法について説明いたします。読者の皆様の中に、小学校1年生から高校3年生のお子様をもつ保護者の方もいらっしゃるかと思います。我が子へ学校での生活に違和感を覚えたら、すぐに、担任に相談する選択肢もあります　一方で、「学校楽（たの）しぃーと」は県外の人も自由にダウンロードでき、分析できるようにしています。したがって、お子さんの同意が得られるのであれば、「ちょっと、アンケートに協力してくれる？」などの声掛けをして、「学校楽（たの）しぃーと」（質問紙）を実施し、それをダウンロードした分析シートに数値を入力すると、お子さんの学校適応感が6角形のレーダーチャートで視覚的に把握することができます【図１参照】。

　「学校楽（たの）しぃーと」は、万能ではないことを付け加えておきます。いくら精度が高くても万能ではないのです。「学校楽（たの）しぃーと」の目的は、不適応行動の早期発見と未然防止にあります。したがって、
「学校楽（たの）しぃーと」の分析結果を基にした教育相談を実施することが必要不可欠です。「心理検査を実施して、はい、終り。」では意味がありません。また、教育相談も高圧的な態度では意味がありません。加えて、日頃から不信感を持っている担任の教育相談には意味がありません。保護者と担任との合意形成を必ず行った上で、お子様が信頼している先生に「学校楽（たの）しぃーと」の結果に基づいた教育相談をしてもらうことで、お子さんの本音をより多く聴きとることが期待できるものと考えます。この一連の流れをつくっていく担任と管理職への働き掛けが、保護者の腕の見せ所です。

　ここに鹿児島県総合教育センターのWebサイトから「学校楽（たの）しぃーと」に関するURLを記載しておきます。実施上の留意点とお子様の学年の質問紙、そして、データの入力・分析用のエクセルシートをダウンロードしてください。ご不明な点があれば、鹿児島県総合教育センターに連絡し、教育相談課へつないでもらいます。すると、研究主事が対応しますので、同じ画面を見ながらダウンロードなどの仕方について教えてもらえます。

【「学校楽（たの）しぃーと」の活用法】【「比較用『学校楽しぃーと』」　H30.4.16 Version(最新Ver.)】

【「比較用『学校楽しぃーと』」　リーフレットの御案内】

http://www.edu.pref.kagoshima.jp/curriculum/seisi/newhikakuyou/top.html