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随想 サチエ(仮名)の四つ葉のクローバー🍀

随想 サチエ(仮名)の四つ葉のクローバー🍀

 私は、十数年前に児童相談所や鑑別所、家庭裁判所などから送致されてくる子供たちを預かり、疑似家族を通して子供たちを育て直す児童自立支援施設で勤務していた時期がありました。男性職員は父親役となり、一貫して父性原理で子どもを育んでいきます。寮母さんは、母親役となり喪失したり、経験したりすることが少なかった母性原理を味わわせます。

 心理学で端的にいうと、父性原理とは「ダメなものは、ダメ。」「ここからここまでの範囲は許されるが、人を苦しませたり、暴力を振るったりするのは絶対に許さない。」「好むと好まざるとに関わらず、自分がやりたくないことでも、皆が取り組んでいることから逃げてはならない、必ず取り組まなければならない。」といった考え方に立脚した理念で子育てをし直します。

 一方で、母性原理とは、「あなたのことは好きですよ、でも〇〇という行為はダメ、〇〇という言葉を使うのはダメ。」「あなたが、これまで社会に対してしてきたことは、絶対に許されることではありません。でも、私はあなたを見放しません。あなたを切り捨てません。時には、大声で叱りますが、絶対にあなたを見捨てたり、切り捨てたりしません。」という考え方に立脚した理念で子育てをし直します。

 

 県の児童自立支援施設に送致されてくる子供たちは、そのほとんどが保護者の誤った子育てに起因します。子供たちは、保護者の不適切な養育態度によって、誤学習を身に付けたまま育ってしまうのです。誤学習とは、社会適応できる能力や資質、技能と相反する誤ったことを、その家庭環境の中で押し付けるために、子供は物の見方や考え方、態度など誤ったことを身に付けてしまうんのです。その誤学習を認知行動療法などによって改善するために、繰り返し指導していく場所なのです。

 

 私は、その施設で、サチエ(仮名)という少女と出逢いました。

 

 サチエは、複雑な環境で育ちました。父親には、養育する力がなく、母親は、他の男性を選び、子供たちを突き放しました。母親から繰り返される存在否定の言葉で彼女の心の中はズタズタに切り裂かれていました。

サチエは、親から見捨てられた感情を心の奥底に抱きながら生きぬいてきました。

繰り返えされるリストカット・・・。

人の温もりを求めるための援助交際・・・。

「先生、私ね、お金も欲しかったけど、裸で抱きめあうと、ほっとしだんだよね。」そこにサチエの心の泣き叫ぶほどの悲しみを感じました

 

サチエの両腕は、リストカットを繰り返したため、ケロイド状に盛り上がっていました。

痛々しいその傷は、サチエの心の状態を映し出す鏡だったのです。

 

サチエは、いつも休み時間に四つ葉のクローバー🍀を探していました。私は彼女にいつも誘われて一緒に四つ葉のクローバー🍀を探しました。

 

ある日のこと、土砂降りの雨の中、傘をさしながら、サチエは必死になって四つ葉のクローバー🍀探していました。彼女の腕と前髪と腰は雨で濡れていました。前髪から頬にかけて流れる雨粒は、彼女の涙の雫のようでした・・・。

 

サチエはいつもこのようにつぶやくんです。 

「先生、私、幸せになれますかね?」

「きっと、幸せになれますよね?」

 

「うん、幸せになれるさ。」

私はなんの根拠もなく、つい、反射的にその問いに答えてしまったのです。

私は、彼女がクローバー🍀を必死になって探す姿を見つめながら、いろいろなことを考えさせられました。

 

サチエは、何も悪くない。

サチエは、自らの意思でこの世に生を受けたわけではない。

サチエは、あの父親とあの母親を選んでこの世に生を受けたわけではない。

サチエは、その名前も彼女が選んで付けたわけではない。

サチエは、その髪の色も瞳も顔立ちもスタイルも、彼女が望んだわけではない。

サチエは、この境遇を選んで、生まれてきたのではない。

彼女は、何ひとつ自ら望んで生まれてきたのではないのだ。

 

人は好むと好まざるとに関わらず、何ひとつ選べずにこの世に生を授かる。

そんな想いが自己問答のように私の心の中で繰り返されてゆく。

ただ、サチエの境遇を想うと彼女の姿を見るだけで、胸の奥からそんな気持ちが込み上げてくるんです。

 

 それからしばらく経ったある日のこと・・・

 

 サチエは自由時間になっても外で遊ぼうとしませんでした。テレビさえ見に来なかったのです。

 

 私は違和感を覚え、素知らぬ振りをして、サチエの個室の前の廊下を通りました。すると、彼女は個室にこもって、キルト生地を切って何かをつくっているんです。裁縫道具の使用許可を得て、キルト生地を縫っていたのです。厚紙を下さいと願い出たので、白い厚紙を渡しました。

 

 その数日後のことでした。私がサチエの個室の前を通ると、黄色のキルト生地を机に置いてその両の手を合わせて拝んでいるサチエの姿を見かけました。しかし、わたしは敢えて声をかけませんでした。私が踏み入ってはならない彼女なりの大切な何かがあると感じたからです。

 

 その日をさかいにサチエは、いつも額の前にその両の手を合わせて拝んでいました。

 

 ある日のこと、廊下に立っている私の姿をじっと見つめ返しました。意外なことに、私を部屋に招き入れてくれたんです。そして、見せてくれました。彼女が拝んでいたものを・・・

 

 黄色のキルト生地に「祈り」という文字が縫ってありました。キルト生地の中には、厚紙が数枚入っているんです。その厚紙には、彼女が集め、押し花にしていた、お気に入りの「四つ葉のクローバー🍀」が丁寧に貼り付けてありました。

 

 そうです、彼女にとって「四つ葉のクローバー🍀」は、「お守り」だったんです。サチエにとって、とても大切な「お守り」だったんです。つまり、そのお守りは「幸せ」の象徴だったのです。「四つ葉のクローバー🍀」の貼り付けてある厚紙の裏には「どうか幸せになれますように。」という文字が書かれていました。サチエは、自分の力で「幸せのお守り」を作りたかったのです。

 

 これから彼女に待ち受ける「辛い人生を生き抜くためのお守り」だったんです。

どうか幸せになれますように・・・

退園したら、おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に幸せに暮らせますように・・・

どうか私を守ってください。辛いことが起きても耐えてみせます。だから私を幸せにして下さい。

 

サチエが作ったお守りを見つめながら私は、そんなサチエの心の声が聴こえてくるようでした。

 

その後、しばらくしてから彼女は退園しました。 

 

【出典画像 四つ葉のクローバー(シロツメクサ)|

花言葉・保存法・見つかる確率は?】

https://inakasensei.com/clover

私の自宅の庭にも四つ葉のクローバー🍀があります。それに気づくと私は立ち止まります。その度に彼女が雨に濡れながら必死になって四つ葉のクローバー🍀を探す姿と祈りを捧げる姿を思い出します。

 

サチエは笑顔のとても似合う女の子でした。もう30歳を過ぎています。彼女は、どんな物語の中を生きているのでしょう。今でも、彼女の言葉を思い出します。「先生、私はなんで生きていかなきゃならないの?この前、寮長先生が、『たった一度の人生だから、精一杯生きていかなきゃだめなんだ。人は生かされている存在なんだよ。』って言ったけど本当なの?」

 

 退園に際して、私はサチエを呼んで伝えました。「先生は、幸せになるために生きるんだよ、って伝えたけど、

もっと大切なことを言い忘れていたよ。それはね、生きるってことは、引き受けることなんだ。あなたの目の前にある現実を引き受けるってことなんだ。現実を引き受けたところから再出発するんだだから、あなたの現実が好むと好まざるとに関わらず、引き受ける覚悟ができて初めて、人生を再出発することができるんだよ。

 

「先生、私に引き受けられますかね?」

「それは分からない。でも引き受けなきゃ、前に進めないだろう。そのお守りはね、『幸せになりますようにと言う祈りと、『これからの現実を引き受ける覚悟』の両方が込められているんだと思うよ。」

「先生、生きるのって、難しいですね・・・。」

「うん。そうだよ。」

 

私はサチエに、生きることは生かされているという発想ではなく、今まさにつらい現実を引き受けることだと告げておきながら、自分が延髄梗塞で倒れ、生き地獄の中をさまよっていたころは、その発想を思い出すことができませんでした。サチエに偉そうなことを言っておきながら、私は辛い現実を引き受ける心構えをすっかり忘れていました。サチエ、ごめんね。偉そうなことを言って。先生はまだ、未熟者だったね。

 

『どうか、サチエが幸せでありますように🍀

 

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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